ふらふらと街中を歩き回り、不特定多数の人間に「元気か?」などと当たり障りのないことを話しかけては頭を撫でる。かと思えば、ぼーっと周囲の人間の様子を観察しては機嫌よく目を細めてニコニコと頷く。
散歩と言うよりも徘徊と言うのが適当とも思えるこの行動。仕事のない限り、いや…あったとしても、その日課を欠かすことのないサンである。
蝙蝠傘とウサギ型風船を頭上でふわふわさせながら公園のベンチに座り込み、遊具で遊ぶ子どもたちをひとしきり眺めていた。
「あー…そろそろお前を連れ帰ってやんねぇとなぁ〜」
チラリ、黒い瞳を向けるのは、傘の横で風に揺れているウサギ。
「いい加減仕事に戻んねぇといけねぇし……帰るか」
すっかり太陽も傾きかけ、多くの人間があと2、3時間もすれば仕事を終えて帰宅すると言うのにこの言動だ。不真面目なことこの上ないが、漸く働く気になったらしい彼は、自宅兼事務所になっているビルへと足を向けた。
サンがひっそりと開いている何でも屋は、裏と表の境界線……どちらもの出入りのある中立地帯にある。そこへ入って少ししたころ、後ろへ引っ張られる感覚と共にゴムの擦れる音がした。
「ん?」
振り返ったそこには、ウサギ型風船を両手で掴み、赤い瞳でジィィ…っと見つめている青年がいた。口元を隠している彼の左耳には黒いウサギの耳当て……。
「何だ? ボウズ。ウサギ好きなのか?」
声は聞こえているのだろう。ウサギから目を離すことはなかったが、コクリと頷く。
「そんなに好きならやろうか?」
弾かれるように顔を上げた青年に、サンの瞳が柔らかく笑む。
「好いてくれるやつんとこに行く方が、そいつも嬉しいだろ。もってけ」
「……ありがと」
ポツリとした呟きにワシワシと白い髪を撫でたサンは、駆け足で去っていく青年の背を見送る。
「あ、名前聞くの忘れちまったなぁ〜……ま、いいか。縁がありゃまた会うこともあるだろ」
後頭部を掻きながら首を竦める彼は、そのいつかが近いうちに訪れるような気がしていた。
- continue -
2013-12-12
我が子、サンの2話目。
屑深星夜 2013.12.2完成