『……このまま、消えちまえたらどんなに楽か…な……』
耳に木霊す小さな呟き。それは、モントの不安を煽り、羽ばたきの早さが増す。
例えそれが主人であるサンの1番の望みであっても、心を縛る重い鎖がそうはさせないだろう。……わかっていても、怖いもの。
誰よりも己の死を望んでいるのに、誰よりも己の死を疎む。
それが自分たちの使える主だと教えられて育った。
父に代わって側に仕えるようになってまだ10年。主の変貌は2度目のことであったが恐怖を感じずにはいられない。
それでも、その欲望のままに力を奮う主の姿は、眷属として憧れずにはいられないもの。唯一残った純血の吸血鬼に仕えられる喜びも、確かに胸の中にあった。
『多分、暴走しないまま勝てる相手じゃねぇと思う』
言葉通り正気を保ったままでは、確実に負けていただろう。己の手でという“使命”を果たすためには、空腹で倒れる前に大量の血を流して自ら暴走しなければならなかったのだ。
モントが戦いの前に指示されたのは2つのこと。勝った時は薫を、負ければラファーガを呼ぶことである。後者は、被害を広げないためにも、確実にターゲットを殺すことができるだろう相手へ迅速に知らせるため。前者は、倒れたサンが死なないため……だった。
ただひたすらに、教えられた方向に真っ直ぐ飛んだ。そうしなければ、モントには、自分たちの家がある街にすら帰れなかっただろう。しかし、その先はどうしていいかわからない。どこをどう行けば自宅へ帰れるかもわからないモントに、薫がいる場所へたどり着けるわけがない。それでも、サンのために探さないわけにはいかなかった。
「薫さまぁぁぁぁぁ!! 薫さまぁぁぁぁぁぁ!!」
既に夜は白みかけ、戦闘終了から数時間が経っている。彼が自ら負った傷は深い。人よりも丈夫で生命力の高い吸血鬼といえども、普段から血を摂取していないサンが自身の傷を癒すことはできない。倒れた段階で、既に大量の血を失っているのだ。急がなければ命が危ない。
「薫さまぁぁぁぁぁぁ!!!」
地平線から太陽が顔を出したのか。ポンと音を立てて、蝙蝠から人へと変わったその時。
「ここいらで呼んでるっつーから来て見れば、モントじゃねーか。どーした?」
「……うっ!! ウワァァァン!!! た、助けてくださいぃぃっ!! 助けて…っ!!」
既に溜まっていた涙がぽろぽろと滑り落ちていく。
やっと見つけた探し人。主を助けられる人間。
上半身を屈める彼の足に勢いよく飛びついたモントは、それをギュッと抱きしめた。
- continue -
2013-12-12
我が子、サンの7話目。(モントの話でもありますね…)
屑深星夜 2013.12.7完成