ボウケン - 3
1番最初にトラップが。
その後に続いてクレイ、キットン、わたし、ルーミィとシロちゃんの順に次の部屋に入っていく。
最後尾のノルが部屋に入りきったときだったわ。
ガ……タン…ッ
「…なんだ?」
「何か音がした…よね?」
微かに聞こえた音にノルと顔を見合わせたら、重いものを引きずるような音と一緒にウサギの像がこっちの部屋に移動して来るのが見えたの!
「え、えぇぇっ!?」
驚きながらぶつからないように避けるわたしたちの前を、それはゆっくりと通り抜けてく。
「ウサギさんすごいデシ!!」
「かっこいいお〜!」
ルーミィとシロちゃんは…もう、目をキラキラさせちゃって。
まるでこのウサギが生きてて、自分の力で動いたとでも思ってるように興味津々。
でも、それに負けないくらいこの大人2人も気になってたまらなかったみたい。
「ほうほう! こんな仕掛けがあったんですねぇ〜っ!」
「おれたちがこの部屋に入ったら、こいつが動くための溝が現れた…みてぇだな」
止まるのを待たずに近づいて調べ始めたキットンとトラップは、像が部屋の真ん中で動かなくなるころにはそう結論づけてたんだ。
確かにその言葉どおり、Aの部屋の真ん中からBの部屋の真ん中まで、2、3センチ幅の深い溝が真っ直ぐ伸びてる。
どうやって動いたのかまでは調べようがなかったんだけど…この溝を伝ってきたのは間違いないみたいだった。
「…これで、さっきと全く同じ作りの部屋になったみたいだな」
「だな。あの壁に入り口があれば、左右の扉の位置まで全く同じだぜ」
クレイに頷いたトラップが指差すのは、入ってきた扉から見て左方向。
3辺ある何もない壁の中央部分だった。
言葉だけじゃよくわからなかったから、本当かどうか確かめてみようと思って、トラップが指差した壁の前に移動して背を向けてみる。
2人の言うことを信じるなら、こうすればダンジョンに入ったときと同じ状況ってことよね。
そこから、目の前の中央部分にはウサギの像が。
更に、左右の扉の位置は……あ! ホントに一緒だ!!
あれ? でも……
「でもトラップ。ここの扉には鍵穴がないよ?」
「お? おめぇ、普段鈍感なくせしてよく気づいたな、パステル」
「鈍感って……え? トラップ、知ってたの!?」
「おめぇが気がついてんのに、おれが気づかないわけねぇだろ」
こっちに近づいてきたトラップを見開いた目で見たら、肩をすくめてニヤリと笑ったの。
もうっ! わかってたんなら教えてくれてもいいのに!!
軽く頬を膨らませてたら、クレイが誰にともなく聞く。
「じゃあ、次の部屋にはどうやって行くんだ?」
これ、わたしも疑問に思ってたことだったんだ。
さっきの部屋と同じ作りだけど、鍵はない。
ウサギの像が動くのはわかったけど、これには扉を開けるための仕掛けはないんでしょ?
目に入る場所には特に何もないんだし……。
これに答えてくれたのは、キットンだった。
「それは…あれですよ。この部屋についてのメモ」
メモって…シナリオの、だよね?
えっと、確かBの部屋は……
「“スイッチ”?」
…だったよね?
と、ボサボサの髪に隠れてるけど目があるだろう位置を見ると、笑みを刻んだ顔が上下に動く。
「この部屋のどこかにスイッチがあるということでしょうね」
「どこかって…どこなの? 見た感じそれらしいものはないみたいなんだけど」
「見たって……おめぇが見てんのは視界の中だけだろ?」
「え? うん」
トラップの問いに素直に頷くと、深いため息を吐かれる。
え、え?
見える範囲にはなかったからそう言ったんだけど…。
呆れた様子のトラップは、
「……上、見てみ?」
って言いながら、右手の人差し指を出して上に向けた。
促されるままに顔を上げると、そこは明らかにさっきの部屋とは違うの。
まっ平らだったはずの天井の真ん中が、細い円筒状に凹んでて…その中央にスイッチらしきものがあったんだ!
「……っあぁっ!!!」
「ボタンみたいだな」
ノルの言葉に頷いたクレイが首を傾げる。
「でも、あのボタン……どう押すんだ?」
うんうん。
だってこの天井、ノルが2人いたって届かないくらい高いんだよ?
それに、遠いからちゃんとした大きさはわからないんだけど、あの凹み……直径15センチあるかないかだよね?
ホントにどうやって押すの?
腕組みして悩むわたしたちに、トラップはすっごく軽く言うんだ。
「飛べばいいじゃねぇか」
「飛ぶ?」
…って、どうやって!?
思わず聞き返した言葉に、ウサギの像の近くにいたルーミィが口を開くの。
「?? ルーミィ、ふりゃーするかぁ?」
「!!」
そっか!!
フライがあったっけ!!!
1度ルーミィに向けた視線をパッと戻すと、ニヤッと笑ったトラップはルーミィのところまで歩いていって、
「おぉ、あの縦穴の中じゃシロに頼むのは無理そうだからな。おめぇに頼むしかねぇ」
って言いながらしゃがむと、ポンとシルバーブロンドの頭に右手を置いたんだ。
「わかった! がんばるお!!」
自分が期待されてるってわかったルーミィは、頬を紅潮させて頷いたんだ。
クレイと練習したおかげで、メモを見なくてもスラスラと呪文を言えるようになったルーミィ。
目を閉じるとフライの呪文を唱え始める。
「ヨイタキイデン、トゲロヒヲ、サバ…………オオノア」
構えていたロッドを自分に向けると、ルーミィがおしりの部分からふわりと宙に浮いた。
そして、トラップに何度か言い聞かされたように天井の凹みまで一直線に飛んでいったの。
最初のころはいつ落ちてくるかって心配になるくらいの魔法だったんだけど、見違えるくらい上達したよね。
ルーミィの得意分野だったってことなのかしら?
難なく天井までたどり着いたルーミィは、小さな手を穴に差し入れて……
ポチッ
スイッチを押したんだ。
そのとたん、
ゴゴゴゴゴ……
と、閉まっていた方の扉がスライドして口を開ける。
「よっしゃ!」
「やったぁ!」
「ルーミィしゃんすごいデシ!!」
「あぁ、よくやったな! ルーミィ」
「すごいぞ」
フワフワと戻ってくるルーミィに声をかけると、とっても嬉しそうにはにかむの。
これがすっごく可愛くって!!
「ルーミィがフライを使えてよかったですねぇ〜」
キットンののんびりした声に、ホントにそう、と内心で頷きながら、わたしは小さな身体をギュッと抱きしめたんだ。
next...?
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