ボウケン -





 ルーミィの活躍で開いた扉の向こう側には、また同じような部屋が続いてたの。
 もしかして…?
と思ったわたしは、地図で言うCの部屋に移動してから後をついて来たキットンとノルが邪魔にならないような位置に立つと、振り返って元いた部屋を見たんだ。
そうしたら、部屋に全員が入りきった瞬間、


 ガ……タン…ッ


さっきも聞いた微かな音が響いた後、Bの部屋の真ん中にいたウサギの像がこっちに動いてきたの。
「おぉぉ! またですね!!」
「そうだね!」
 自分の想像が当ったことにも興奮しつつ、像がこの部屋に入ってくる道をあけて待ってたんだ。
けど、ここからは予想外。
 あと1センチも動いたらCの部屋に入る…っていうギリギリのところまで来たところで、像はピタッと止まっちゃったの。
「あえぇ〜? うささんこっちこないんかぁ?」
「止まっちゃったデシね」
 真ん中でウサギ像が来るのを待ってたルーミィたちはガッカリ。
もちろん、今度は像が動く様子をじっくり観察しようって思ってたわたしもね。
「ここで止まるということは、何か意味があるんでしょうかね?」
「かもしれないな」
「そうだな」
 キットンの言葉にクレイとノルが頷くのを視界の端に写しながら、わたしは部屋の中を改めて見回したんだ。
 作りはやっぱり…今までの部屋と全く同じ。
正六角形で左右に扉があるのも変わらない。
 天井はBの部屋のように窪んではいなくて、Aの部屋と同じようにまっ平ら。
つまり、ここにはスイッチはないってことね。
 床にはウサギ像が動いてこられるように、中央まで細い溝が伸びてるけど…それ以外はなーんにもなかったんだ。
 今度は一体どうやって扉を開けるのかなぁ?
…なんて首を傾げてたら、
「おい、おめぇら。こっち来てみろ」
入ってきた方じゃない扉の前にいたトラップに呼ばれたんだ。
「? どうしたの? トラップ」
 何があったんだろう? と思って、わたしだけじゃなく他のみんなも駆け寄ると……トラップの視線の先に、今までの部屋にはなかったものがあったんだ。
「あぁぁっ!! “鏡”っ!!!」
 思わず叫んじゃったんだけど、そこにはシナリオにメモされてた鏡があったんだ。
「今までの様子から言うと……こいつをどうにかすんだろうな」
 トラップのいうこいつ ―― 鏡は、扉の下から1.2メートルくらいの高さはめ込まれてるの。
30センチ四方のそれには、左右の2辺に握るのに丁度よさそうな突起がついてた。
「…おや? 鏡の下に何か文字が書かれてるみたいですね」
「えっ!?」
 興味深そうに鏡を観察してたキットンの言葉に、全員の顔がギュッと集まった。
 確かに……鏡の下辺に寄り添うように何か文字が掘られてたんだけど、見た瞬間には読むことができなかったんだよね。
普通だったら目を走らせた瞬間わかるはずなのに。
 みんなの頭にハテナが浮かんだんだけど、いち早く気づいたクレイが声を上げたんだ。
「あ、これ…鏡文字になってないか?」
「そうです、クレイ! 鏡文字です!!」
 鏡文字って言うと、左右逆に書かれてる文字よね。
言われて見れば…うん、これなら文字を読むことができるわ!
 けど、みんなで顔を寄せ合って解読する必要はないわけで……。
「えー…これは、文章全てが逆になっているようなので……」
 わたしたちは、ブツブツと呟きながら頭を回転させはじめたキットンの言葉を待つことにしたんだ。
…って言っても、短い文だったからほんの少しなんだけど。
「わかりました! 『我は双子なり。用いて写せ』です」
「双子って…?」
「写せって……何を?」
 解読したはずの文章は、もう1度わたしたちの頭にハテナマークを浮かべさせただけだった。
でも、キットンはちゃんと理解してるみたいで、
「つまり、こういうことですよ」
と、自信満々にそう言うと、鏡の左右についた突起を握って引いたんだ。
 すると、ズズッと小さな音を立ててそれが外れたの。
更に…その下には持つ所のないまっ平らな鏡がもう1つ!!
「我は双子…というのは、鏡が2枚あるということなんですよ」
「そっか〜! キットンすごい!!」
 まさかそんな仕掛けになってるなんて思ってなかったわたしは、パチパチと拍手を送る。
同じように感心したクレイやノル、ルーミィも真似して手を叩いてたんだけど、その横からトラップが呆れた声で言うんだ。
「んで、そいつら使って写せって?」
「はい」
「何をだよ」 

 ピタッ!

 急にみんなの動きが止まり、シーンとした空気が辺りを支配した。
褒められて頭をかいていたキットンなんか、そのまーんま固まってるんだよ。
 そう! そうだった!!
2枚の鏡を使うのはわかったけど、それを用いて何を写すか、まだわかってなかったんだよね!!
呑気に拍手してる場合じゃなかった!
「えっと、この部屋で鏡に写せるものって言うと……」
「壁や床じゃないだろうしな」
「んなもん、もう映ってんだろ?」
「天井もそれらしいものはないですしね〜」
 みんなであちこちキョロキョロしながら、鏡に写したらよさそうなものを探すんだけど……それっぽいものは目に入らなかった。
そうしたら、まだ1人じっと鏡のはめ込まれた扉を見てたノルが指差すの。
「この字は?」
 ……あ、そうか。
この字は他の部屋にはないものだし、鏡が1枚では写せないものよね。
可能性はあるかも!
 わたしが期待の眼差しで見つめると、
「やってみましょう」
と頷いたキットンが扉に近づいたんだ。
 鏡を胸の前で持って、丁度キットン自身が文字と対面するようにしたんだよね。
そこから鏡をちょっどだけ上に向けていったら……はめ込まれた方の鏡にしっかり文字が写ったんだよね!
 けど、扉が開くことはなくって。
「……何も起こりませんねぇ〜」
 キットンの言葉に思わずため息を吐いたときだったわ。
「ぱーるぅ、うさぎさんは?」
「え? ウサギさん?」
「ウサギ……そ、それです! それですよっ!!!」
 えぇぇっ!? ウサギの像!?
あれをこの鏡に写すっていうの!?
 確かにそう考えれば、あの像が部屋の入り口でピタッと止まったのもわかるんだけど…。
でも、この部屋の中に入って来てもいないものをどうやって写すのか全然わからなくって。
わたしは扉の前の鏡を遮らない位置で、キットンがすることを見てたんだ。
 部屋の真ん中に歩いていったキットンは、入ってきた入口に正対して鏡にウサギの像を写す。
そこから少しずつ少しずつ、写しだす鏡の方に横回転させていって……。
 

 カチッ


 小さいけれどウサギの像がしっかり写った瞬間、鍵が開く様な音がして、


 ゴゴゴゴゴ……


と、低い音を響かせて扉が開いていったんだ。
「反射角と入射角が同じということが解っていれば簡単に解ける謎ですねぇ〜」
「何難しいこと言ってんだよ! 頭使うのはお手のものってか?」
 いち早くキットンに駆け寄ったトラップは、背後からその首に腕を回して、握った反対の手をこめかみにグリグリと押しつける。
「イタタタタッ!!! や、やめて下さいよ、トラップ!!」
「こら、トラップ! 功労者をいじめるな!」
 逃げようとしても逃げられないキットンを助けるようにトラップを止めたクレイの顔は…言葉とは裏腹にとってもいい笑顔。
トラップも嬉しくてやってること…ってちゃんとわかってるからこそ、だよね。
「さすがキットンだな」
「さすがだお!」
「すごいデシ!!」
「うん、そうね!!」
 彼らの様子を見ながら、わたしたち3人と1匹は開いた扉のすぐそばでニコニコしながら頷き合った。





     next...?







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