ボウケン - 5
「いいか、パステル。こっからはマップがねぇんだからな。今までのも含めてしっかりマッピングしろよ」
「う、うん! わかった!」
トラップに言われて、わたしはマッピング用紙を取り出してシナリオにあったみたいに六角形を3つ書き写した。
そして、それぞれ今までの仕掛けをメモしておく。
謎解き中心のダンジョンなんだもん。
そういうことがこれから何かの役に立つかもしれないからね!
準備万端整ってから、わたしたちは次の部屋に向かったんだ。
扉から見える次の部屋 ―― Dの部屋 ―― は、見た感じ今までと同じ部屋みたい。
ちょっと違うな…って思ったのは、床や壁に指本分くらいの穴がたくさん開いてるところかな。
全員がこの部屋に入ると、
カタンッ
今までとは違う軽い音がしたの。
わたしもルーミィもシロちゃんも、さっきまでと同じようにウサギが動いてくるものと思って後ろを見てたんだ。
もちろん、期待通りウサギ像はこちらに向かって動いて来てたんだけど……。
「ギャァァァァァァァッ!!!!」
キットンの叫び声に驚いて振り向いたら、そこにはさっきまでいなかったはずのモンスターがいたの!
見た目は人間の2、3倍もある巨大な牛って感じなんだけど…それよりも角がまた大きいの。
その部分だけは牛っていうよりも鹿に近いのかな?
熊手みたいに平ぺったく広がってて、その先は鋸の歯みたいにギザギザしてる。
「このダンジョン、モンスターは出ないんじゃなかったのかよ」
悪態をつきながら素早くパチンコを構えるトラップの後ろに、ノルが斧を持って近づく。
「どこにいた?」
「わからない。急に現れたんだ……」
答えながら剣を抜いたクレイは、嘶きながらこっちを見ているモンスターを緊張した面持ちで見つめてた。
3人に庇われるような形で立ってるわたしたちに、トラップが言ってくる。
「おめぇらは前の部屋に戻ってろ」
「う、うん」
「わかったデシ! ルーミィしゃん行くデシ!」
「うん!」
「キットン、モンスター図鑑ですぐに弱点調べろ!」
「わ、わかりました!」
わたしたちは頷いて、いつの間にかこの部屋の入り口まで来ていたウサギ像を少しだけ避けながらCの部屋に戻ったんだ。
「キットン、急いで急いで!!」
「そんなに焦らせないで下さいよー!!」
ペラペラと図鑑が捲られる音がもどかしくってたまらなくって。
焦らせたら余計遅くなるのがわかってるのに、ついついキットンにそんなことを言っちゃったの。
でも、その気持ちわかるでしょ?
隣の部屋ではわたしたちの身長の何倍もある巨体が、鼻息荒く仲間と対峙してるんだもん。
3人一緒の場所にいても不利って考えたのか、トラップがモンスターの正面に立ち、クレイとノルは角に引っかからないくらいの横位置に場所に移動したの。
それをちゃんと確認したトラップは、急にモンスターにお尻ペンペンして見せたの!
もちろん、モォォォ―――――ッ!! って大きな声を上げて怒ったモンスターは一直線にトラップに向かってく。
思わず目を覆いたくなるようなシーンだったんだけど、そこはトラップよね。
寸前で身体を低くすると、スルリとその攻撃をかわしちゃったんだ。
目標物を見失い、壁を目の前に一瞬動きを止めた相手を見逃すわけがない。
左右に待機していたクレイとノルが攻撃したの。
やったぁ!!
「……?」
「なんだ……?」
けど、当の2人は不思議な顔をしてる。
やっと方向転換しはじめたモンスターから目を離すことなく、トラップがクレイたちに近づいた。
「あいつ、ダメージくらった様子ねぇな」
「あぁ」
「ちゃんと攻撃したはずなのに、切った感触がないんだ」
「あん?」
えぇ!? 嘘っ!!
ってことは、攻撃は当ってないってことだよね?
アンデット系のモンスターみたいに実体がないってことなの??
「このままじゃ体力を消耗するだけだ」
「だな。おい、キットン!!! まだかっ!?」
トラップの声に、図鑑を手に立ち上がったキットンが答える。
「全部見てみたところ、牛型のモンスターは幾つかありますが、同じものは載ってないです。まさか、新種でしょうか!」
「なんだと――っ!? じゃあ、弱点はわかんねぇってことかよっ!!」
「そうなりますねぇ〜」
「呑気に言ってる場合じゃねぇだろっ!! 何か方法を考えろっ!!!」
叫びながらもトラップは、モンスターの次の攻撃をかわそうとしているところだったの。
モンスターポケットミニ図鑑にも載ってなくて、実体がないモンスターなんて…どうやって戦ったらいいのっ!?
キットンと2人で頭を抱えてたら、足元でシロちゃんがわたしを見上げてた。
「パステルおねーしゃん」
「え? なぁに? シロちゃん」
「僕の目、緑になってるデシか?」
「?」
目が緑?
何でそんなことを聞くのか全く思い当たらなくって首を傾げたら、シロちゃんの隣にいたルーミィが答えるの。
「しおちゃん、おめめまっくろだお!」
「あっ!!」
そうだ!
シロちゃんって危険を感知すると目が緑色になるんだったよね。
やっと思い出してあらためてシロちゃんのクリクリの目を見てみると、ルーミィの言う通り黒一色。
どこにも緑色なんかなかったの。
「ということは、危険はないということですね!」
「そうかも!」
期待を込めてトラップたちの方を見た瞬間だった。
「うわぁぁっ!!!」
みんなの身体が角に触れて勢いよく壁際に吹き飛ばされていくところを目の当たりにしちゃったの。
「クレイ!! トラップ!! ノル!!」
駆け寄りたくても、わたしたちが行ったら余計に邪魔になるだけなのも解ってたから、ウサギ像の陰から声をかける。
「大丈夫!?」
3人はしばらくは動きがなかったんだけど…ヒョイと身体を起こしたのを見て、わたしはホッと胸を撫で下ろした。
当のクレイたちはというと、またまた不思議な顔で互いを見合ってた。
「あぁ、大丈夫だ。攻撃が当った…と思ったんだけど、身体に痛みがないんだよな」
「おぉ。突風で吹き飛ばされたって感じだな」
ノルも2人の言葉に頷いてる。
「何にしてもあいつをどうにかしねぇと進めねぇしな。もうちっとやってみっか!」
「ああ!」
ニヤリと笑いあったクレイたちは、もう1度モンスターに向かって行ったんだ。
さっきと同じように、トラップが引きつけてクレイたちが攻撃するって方法をを繰り返す。
弱点がわからないから色んな場所を狙って攻撃してるんだけど……全然当たらなかった。
ちょっとトラップの息が上がってきたかな? ってときだったわ。
突進してきたのは同じだったんだけど、モンスターが急にブンブンと首を左右に振り出したの!
今まではギリギリまで相手を引きつけて、見極めた隙間をすり抜けてたんだけど…あの大きな角でしょ?
逃げる隙間を見つける余裕のなくなったトラップは勢いよく床に伏せた。
「トラップっ!!!」
驚きすぎて声の出なかったわたしの変わりに叫んでくれたのはクレイだった。
それと同時に、彼は持っていた剣をモンスターの大きな身体に向かって思いっきり投げつけたの。
カシャ――――ンッ!!!
飛んでいった剣は、しっかりと閉まったままの扉に当たって床に落ちた。
そのとたん、部屋の中にいたはずのモンスターがフワリと消えて、大きな音を立てて扉が開いたの!
「……え?」
「何…? 何が起こったの?」
もう、みんな目が点になっちゃって。
キョトンとモンスターがいなくなった空間を見つめてた。
でも、どういう方法でかはわからないけど、この事態を解決したらしいクレイが……もしかしたら1番びっくりしてたかもしれない。
しばらくてやっと落ち着いたわたしたちは、部屋の様子をじっくりと確かめたの。
はっきりとってわけじゃないけど、おかげでこの部屋の仕掛けがわかったんだ。
あのモンスターはアンデットではなくって、本当に幻だったみたい。
次の部屋に繋がる扉を調べたら、丁度真ん中あたりに透明な石がはまってたの。
それがどうもモンスターの幻を映す装置になってるみたいだ、ってキットンが言ってたわ。
遠くから見ると背景の色が透けてるからそんなのがあるなんてわからなかったんだよね。
クレイは、トラップがピンチのあの瞬間にキラリと光ったこの石に向かって剣を投げたんだって。
きっとそれが正解だったんだよね!
だって、おかげで仕掛けが止まって次の部屋への扉が開いたんだもの。
それと…モンスターに攻撃されたときに感じた突風は、床や壁…天井に開いている穴が原因みたい。
幻に合わせてそこから風が吹き出すようになってるかもしれないんだって。
どういう仕組みになってるかは壁や床を剥がして見れるわけじゃないからよくわかんないんだけどね。
「おい、パステル。マッピング終わったか?」
えっと…部屋の形だけじゃなくって、仕組みもちゃんとメモしたし……。
「うん! 大丈夫!!」
わたしは、書き忘れがないことを確かめてから返事した。
「それじゃあ…行こうか」
クレイの言葉に全員がそれぞれ頷いて……わたしたちは次の部屋に向かったんだ。
next...?
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