ボウケン - 7





 しっかりマッピングを終えたわたしたちは、シロちゃんのおかげで開いた扉の向こう ―― Fの部屋へやってきたの。
 みんなが部屋の中に入りきると、もう、お約束のようにウサギ像が動き出した。
「この部屋も大きな違いはないみたいですね」
 動いている像に近寄ってキャッキャッと喜んでいるルーミィとシロちゃんを横目に、わたしたちは部屋の様子を確認する。
 キットンの言う通り、さっきの部屋と同じ。
床や壁に穴が開いてたり、天井が凹んでたり…ってことはなかった。
 でも、ハッキリと分かる違いが1つあったの。
「違いってーと、扉に刺さってるアレくらいのもんだな」
 そう。
それは、トラップの言うアレ。
 次の部屋に繋がってる扉に、金属の棒が垂直にくっついてたんだ。
 人間1人が立てるくらいの長さのそれは、わたしの首辺りの高さのところにあったの。
 用心のためにもトラップが棒と扉を隈なく調べる。
「トラップ、どうだ?」
「罠はねぇみたいだな」
「そうか」
「では、後はこの棒をどうするかということですね」
 キットンの言葉にみんなウンウンと頷いた。
 今までのダンジョンの様子から言うと…他の部屋と違うところが先に進むためのヒントになってるんだもん。
この部屋だったらやっぱり…この棒だよね。
 きっとこれをどうにかしたら扉が開くってみんな思ってるんだ。
 棒って言うと……“押す”“引く”“回す”?
この棒だったら“乗る”もできそうかな?
 わたしがそんな風に考えてたら、
「とりあえず押してみるか」
とクレイが扉に向かって棒を押し込んだ。
 けど、全然びくともしない。
「押してだめなら引いてみろ、という言葉もありますね」
「あぁ、そうか」
 キットンの声に今度は棒を引っ張り始めたクレイだったけど…手が滑るだけで何にも起こらなかった。
「おい、こっちの押すもあるんじゃねぇ?」
 そう言ってクレイと交代したトラップは、棒と平行に立ってグッと力いっぱい押したの。


 ズズ…ッ


「あ!」
「動いたぞ!」
「なるほど、扉をスライドさせるように押す方でしたか」
 扉に“挿す”ように押すんじゃななかったのね!
 顔を真っ赤にさせるほど押し続けてるトラップを見ながら、わたしたちは解決法が解って喜んだ。
 そしたら、急にトラップが棒から手を離したの。


 ズズ…ッ


 あぁぁぁ…動いた分だけ扉が戻っちゃった。
「かぁ――――っ!! だめだ! おれの力じゃあ限界だっ!! なんつう重さだよ、この扉!!」
 言いながらブンブンと振る両手の平には、白くくっきり棒の跡がついていた。
 いくらトラップがヒョロッとしてるからって、一応男の子だし冒険者だもん。
わたしなんかよりよっぽど力はあるはず。
 それでちょっとしか動かせないなんて…どれだけの力がいるの!?
 驚いてたら、ドサッとリュックを下ろしたノルが1歩前に出た。
「おれ、やろう」
「ノル!」
「みんな頑張った。おれも何かしないと」
 いつもみたいに優しい頬笑みを浮かべたままそう言ったノルは、腕をグルグルと回して準備運動し始める。
「ノルでだめならどうにもなりませんよ」
「うんうん!」 
「頼むぜ!」
「おれたちも手伝うから」
 わたしたちの声援を受けて1つ頷いた彼は、右足を後ろに引いて身体全体で棒を押したの。


 ズズズ……ッ


 さすがノル!!
トラップのときよりもスムーズに扉が動いてる!
 でも、その顔は真っ赤になってて、ノルほどの力があっても大変なんだっていうのがよくわかった。
 扉と壁の間に人が入りこめる隙間ができたところでクレイが参戦。
トラップはもしものためにすぐ側に控えてる。
「よ……っいしょぉぉぉ―――――っ!!!」


 ズズズズズ…ッ!


 2人分の力が加わって、開くスピードがもっと早くなった。
「頑張ばれぇ――っ!!」
「がんばれぇーっ!」
「ノルしゃんファイトデシ!」
「頑張ってくださぁぁぁ――――い!!!」
 押し続けるのってすごく大変なはずなんだけど、わたしたちの声が後押ししてるのか残り半分ってところまでやってきた。
 もう扉に挟まれる心配はないって判断したのかな?
「おい!! キットンおめぇも手伝えっ!」
 トラップはそう言うと、クレイの左横に移動して扉を押し始めたの。
呼ばれたキットンも慌てて移動してトラップとは反対側で力を込める。


 ズズズズズズズズッ!!!


 お、おぉ――――っ!!
開いたっ! 開いたよっ!!!
 1人より2人、2人より3人4人と……何倍にもなった力のおかげで、今まで以上の早さで扉が開いていったの。
 みんなの力が合わさるってすごい!
 最後の最後まで扉が開ききると、カチリと小さな音がした。
まるでそれを合図とでも言うようにノルたちが一斉に手を離したの。
 さっきみたいに扉が戻って来るかと一瞬不安になったんだけど、そんな心配全然いらなくって。
しっかりと扉は開いたまま固定されてるみたいだった。
「よぉし! やったぜっ!!!」
「ノル、お疲れ!!」
「おれだけの力じゃない。クレイたちが手伝ってくれたおかげだ」
「いえいえ、やはりノルの力が大きかったと思いますよ」
 互いの健闘を称えあった4人は、一瞬目線を合わせると、大きな声で笑い出した。
まるで照れ隠しのようなその行為に、わたしの頬も自然と緩んだんだ。






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