出会いは雨の日。
ザァザァと強く降る中、傘を差して家路を急ぐシュウの耳に、微かな音が飛び込んでくる。
もちろん、雨の音ではない。道路を走る自動車の音でもない。高く響く…物悲しい、声。
その元を探してキョロキョロとすれば、道端に放置されたダンボールの中に、震える小さな“子犬らしきもの”がいた。
クーンクーンと伏せた腕に顔を埋めたそれは…泣き声からして確かに犬のはずである。しかし、見えているものは両手におさまるほどに小さな少年で、黒髪から生える犬耳と、びしょ濡れの毛布から素足と尻尾がはみ出して見える。
一瞬幻か、と思った。
しかし、何度瞬きを繰り返しても、手の甲で擦っても変わらないそれ。好奇心が勝ったシュウの手が、それがホンモノであることを確かめるために伸びた。
ビクリ、と震える生き物が顔を上げる。大きな黒い瞳は見開かれ、驚きと恐怖で固まっているようだ。
脅かすつもりはなかったのだ、と撫でた頭は人間そのもの。雨に濡れていて冷たいが、生命を感じさせる…温かなそれに、何故か熱くなる胸の内。
気がつけば…家に連れ帰っていた。
じっと見詰め合うこと何分間か。息をすることを忘れそうになるほど、緊張した空気が流れている。
それを破るのは、そうしていても仕方がないと分かっているシュウの方。一歩踏み出し、手にしたエサの入った皿を床に置く……まえに、ダダダダっと逃げていく後ろ姿。上半身を屈めてそれを見送ったシュウは、ハァ…と大きなため息をついた。
彼 ―― セイを連れ帰って1週間。
大人しく手の中で震えていた彼はどこへ行ったのか。あれ以来、近寄ることすらできずにいた。
まだ、自分に慣れていないのだから仕方がない。そう言い聞かせるも、あの雨の日の熱が忘れられず、放って置けないのが現状。
逃げられるのがわかっていても近づかずにはいられないし、手を伸ばさずにはおれない。それほど、シュウはこの“子犬”に夢中になっていた。
「ミルク、置いておくから飲むんだぞ」
この1週間でわかったことは…ただひとつ。ミルクが好きだ、ということだけ。
ドッグフードや自分が食べるものを皿に置いても、警戒して全く近寄ってこない。
だが、ミルクだけは別だ。匂いに反応して、目が輝く。
シュウが側にいると近寄ってはこないが、視線をそこに固定させ、柱の影からじっと見ているのだ。
もしかしたら…それだけは飲んだ経験があるのだろう。空腹を満たすためにも“美味しいもの”を求めずにはいられないらしい。
手の届かない位置に腰を下ろすと、姿勢を低くし警戒した態勢でソロソロと近づいて来る。
視線をセイから動かさないシュウとは…やはり見詰め合った状態。それでも、ミルク欲しさに近づいてくる可愛い生き物に、目を細めた。
- end -
2016-8-21
続きません!!!! すみません!!!
T様とN様とのわんにゃん2主絵茶に参加してw
さすがにひとさまのおうちの設定では書けなかったので…うちの子でせめてみました、が…。
着地点すら決めてなかったのでこんな中途半端ですみません(汗)
とりあえず、うちのセイちゃんだったら逃げるかな、という妄想でした☆
あ、シュウさんはもちろん一目惚れです(爆)
2013.5.13完成(2016.8.21修正) 初出:ツイロン