日常2

日常2


 ご主人様の腕の中は、今はあたしだけのものっ!

 ……って、ついこの間まで言ってたんだけど…ね。変わっちゃったの。
 今やご主人様の腕の中はあの子のものになっちゃったわ。…あの子、セイのものに。
 悔しいんだけど、セイと一緒にいるご主人様がすごくうれしそうだから、邪魔は…しない。でも…でもね、あたしのことも少しはかまってほしいのよ! あたしの気持ちも少しはわかってほしいの!!



 ご主人様の生活が、セイに告白されてから、変わっちゃったの。あ、表向きに、じゃないわよ? ほとんどはみんなが見てないところで変わってるの。


 朝はいつもと同じ時間に起きるわ。でも、毎朝、ご主人様が必ずセイを起こしにいくようになったの。
 …きっと、誰かにセイの寝顔を見せるのが嫌なんだわ。そういう人だもの、ご主人様って。

 朝食はセイと一緒。以前も一緒に食べてたようなものだから、ほとんどみんなは気づいてないみたいだけどね。
 あ、でも、ナナミは何か感じてるみたい。やっぱりセイの近くにいるからかな?

 朝食後にセイが出かけるのを見送って、ご主人様はお仕事をはじめるわ。

 部屋でお昼を食べて、また仕事。

 休憩を取るのはやっぱり3時。でも、前と違って1時間本を読んだら部屋に帰るの。

 部屋に戻ったら書類の整理をするの。
 大体この時間に新しい書類が送られてきたりするみたい。今までは夕食後にやっていた仕事なんだけど、今はこの時間にやってるわ。

 5時になると、やっぱりセイを迎えに行くの。
 これはやっぱり変わらないわね。あ、でも、セイがご主人様に飛びつかなくなったかもしれない…。
 う〜ん……ご主人様だけじゃなく、セイもちょっと変わってるみたいね。

 夕食は前と同じ。

 食べ終わってから、またお仕事。これも同じよ。

 9時になると、お約束のようにセイが部屋に来るの。
 ご主人様も仕事する手を止めて話を聞いてるわ。と〜っても楽しそうにね!
 それで、いつものように眠っちゃうセイを見て、優しく微笑んで……仕事が残ってるとね、セイの寝顔を見ながら残ってる仕事を終わらせるの。
 でも、仕事が残ってないとね、ずっとセイの頭を撫でてるのよ。それも、すっごく幸せそうに!!


 なんかね…それ見たら腹立ってきたんだけど、それ以上に悲しくって…。
 だって、ご主人様にとってみたら、セイがいれば十分じゃない? あたしなんか必要ないみたい。
 今までいっぱい撫でてもらってたのに、今は全く撫でてもらえない。
 ご主人様の腕の中にはいつもセイがいる…あたしの特等席にセイがいるの。
 ……居場所がなくなっちゃったっていうのかな?
 すごく悲しくて、ここ3日、ご主人様のお部屋に戻ってないんだ。セイと一緒にいて微笑んでるご主人様を見たくなかったんだもん……。


 …それで、今どこにいるかって? センチになっているときにそんなこと聞かないでよね、もぉ…。
 えっとね、今、あたしはユズちゃんところにいるのよ。彼女、すっごくたのしそうにあたしのことかまってくれるんだもの。なんかうれしくって…

「葛!」

 ビクッ

 あ、れ…?
 その声って……ううん、違う、違うわよ。ご主人様がここに来るはずないわ。ご主人様にはセイがいればいいんだから……。

 トコトコトコ……

 …近づいてくる足音が、2つ?

「葛ちゃん」

 あ。

 ユズちゃんに抱えられて、気が付いたわ。うっすら汗をかいているセイが、あたしのすぐ側にいて、少し遠くに、はぁはぁ肩で息をしてるご主人様がいたことに。
「シュウさん心配してたんだよ? 3日間も部屋に戻ってこないって」
 だって…戻れるわけないじゃない。2人の幸せそうな笑顔があるご主人様のお部屋に。
「…葛ちゃん、本当は戻りたいんでしょ?」
 えっ?
「戻りたいから、探してほしいからここにいたんじゃない?」
 そんなわけ……。
「探してほしくなかったら、もっと遠くに行ってるはずでしょ?」

 うっ…。

 …確かに、ユズちゃんの言う通りだったかもしれないわ。
 見ていたくないって思ったけど、やっぱりご主人様からは離れたくはなかった。ご主人様にあたしのことを見てほしかった。
 だから、あたしはご主人様のところに戻らなかったんだわ。
「すまない、葛。俺はお前の気持ちを全く考えていなかったようだ…」
 そんなこと…ないですよ? そりゃさみしかったですけど、あたしは、ご主人様が幸せなら……。
「戻って来い。部屋にお前がいないと、どこか落ち着かないんだ」
 ……本当、ですか? それっ、本当ですかっ!? ご主人様!!
 あたし、そう思ってもらえただけですっごくうれしい…。
 でも、いいんですか? あたしがいたら、セイと2人っきりにはなれないんですよ?
「葛」
 …セイも、いいの?
 あんた、気づいてないでしょ? あたしがご主人様を好きなこと。
 邪魔するわよ? それでも、あたしがいてもいいって?
「戻ってあげてよ、葛。シュウさん、葛がいないといつもの落ち着いたシュウさんじゃなくなっちゃうんだ」
 えっ?
「セイっ!?」
「部屋の中で、集中できなくて、キョロキョロしてるんだよ」
 ……うそっ!
「…そのことは言うなと言っておいただろう?」
「言わなきゃ戻ってこないかもしれないよ、シュウさん」
 本当、ですか? ご主人様。
「……」
 ご主人…様?
「…恥ずかしいことだが、そういうことだ。ずっと前から、俺の側にお前がいてくれたからだろう。……葛、頼む。戻ってきてくれないか?」
 そんなっ! 側にいないと耐えられなかったのはあたしの方です!! 戻ってきて、なんて言ってもらえなくても、あたしにはご主人様のところしか行くところはありませんよぉっ!!!
「わぁっ!」
 ご主人様ぁっ!!
「…葛」
 …まだ息、切らしてる。そんなにあたしのこと探してくれたんですか? ご主人様。
 あたし、ご主人様の側にいていいんですよね?
 もう嫌って言ってもずっとずっといますよ? いいんですか?
「……どこかに行くなら何とか言っていけ。仕事にならないのはもうゴメンだ」

 ……ご主人様の腕の中…やっぱり暖かい。

 この腕は、セイだけのものじゃなくて、あたしのものでもあるんですね?
 もう絶対どこかに行ったりなんかしません。あたしは、ご主人様の猫ですから!
「ユズ、迷惑をかけたな」
「いいんです!また、遊びに来てね、葛ちゃん」
 ありがと、ユズちゃん。押しかけちゃってゴメンね。
「セイも、探してくれてありがとう」
「どういたしまして」
 ありがと、セイ。ご主人様がそんなに困ってるなんて、あたし知らなかったもん。
 あーあ。
 あたしでも、ご主人様について知らないことがあったのねぇ〜…って、あたしがいない時のことじゃない! どうやっても知ることができないじゃないのっ!!
「…帰るぞ」
 あ、はいっ、ご主人様!
 ……時々は、セイばっかりじゃなくて、あたしのこともかまってくださいね?



 きっと、もう大丈夫。
 ご主人様にとって、あたしも大切なんだってわかったから。
 心配させてごめんなさい。
 でも、あたしの気持ち、わかってくれましたよね?

 あたし、セイに負けないくらい、ご主人様のこと大好きなんです。

- end -

2015-4-30

2000年にUPしたものを、修正UP…したものを、ほぼそのまま載せてあります。

これまた猫視点。
……半分自分の願望も、入ってたりするよ、ね(笑)


屑深星夜 2008.5.3修正(2015.4.30修正)