普段であれば休日は城の己の部屋でゆったりと過ごすところだが…。
秋も半ばの休みに、シュウはセイを伴って外へと出かけた。
折しも、雨の後の晴天のこの日。地面の状態はあまりよくはなかったが、遠乗りがてらグリンヒル近くの森へと向かったのだった。
白馬に跨るセイの少し後ろを、栗毛の馬を操るシュウが追いかける。互いに追い抜き追い越し、時にはゆっくり並んで馬を走らせることしばらく。
目的の場所に着いたシュウが馬から下りた。
「……………」
一面、赤や黄色に染まった秋の森。1本1本…いや、1枚1枚微妙に違う葉の色が織りなす、錦の風景。
森の入口のため、周囲に果てしなく広がった青空とのコントラストもまた美しかった。
シュウは手近な木に馬を繋ぐと、声もなく呆けたように辺りを見ているセイに近づき、その手を取った。
「すごいきれいだね」
言いながら促されるまま馬を下りた少年は、手綱を引いて馬を動かしシュウとは別の木に繋いだ。
互いに思いを寄せるようになり、その思いが通じた仲の2人ではあったが、こうやってふたりきりで城の外に出かけるのは初めてだった。
恥ずかしがり屋のセイのこと。朝から緊張してガチガチであったのだが、馬を走らせるうちに硬さが取れてきた。
言葉少なに感じる爽やかな風と、カラリと晴れた雨上がりの空の色。敢えて多くを語らないシュウの行動がもたらした沈黙がむしろ心地よく感じられ、セイの緊張を解いていったのである。
話をすれば余計に自分を意識するだろうと思っての男の行動が見事に的中したわけである。
しばらく森の中を散策しながら、風景だけでなく、早くも地面を飾り始めた葉をも楽しむ。
今だけは戦いのことを忘れて、いつもなら聞く暇もないような互いのことを話して過ごした。
昼近くになり腹の虫が鳴きだしたセイに笑みを隠さなかったシュウは、ふくれっ面になる彼をなだめつつその場で昼食を取ることにした。
持ってきていた敷物を引き、その上に向かい合って座った2人は、ハイ・ヨーが持たせてくれた弁当を広げた。
外へ出かけるなら…と彼が用意してくれたのは、五目御飯のおにぎりと根菜の浅漬け、ほんのり甘い卵焼きに醤油の効いた鶏の唐揚げ。冷めてしまっていても香り立つような出来のそれに目を輝かせたセイは、早速黄色く輝く卵焼きを口に運んだ。
シュウも握り飯をひと口ふた口と食べながら、他のおかずにも箸を伸ばした。
「あのね、ボクが住んでたキャロもすぐそばが森でね、いつも紅葉の時期には、じいちゃんとナナミとジョウイとお弁当持ってお出かけしてたんだよ」
ニコニコと上機嫌で語るセイを、箸を止めたシュウは優しく見つめている。
「ここよりも寒いとこだったから、見ごろはもうちょっと早い時期だったんだけど…」
途中でパクリと握り飯を頬張った彼は、口をもぐもぐさせながら周囲の木々を眺める。そして、ゴクンと飲み込んだ後、再び言葉を続ける。
「……こんな風にまた紅葉を見れるなんて思ってなかったな」
心底嬉しそうに微笑む思い人のその姿だけで、シュウの胸は温かいもので満たされていた。
太陽が少しずつ輝きを落とし始めたころ、そろそろ城へ帰ろうと馬を繋いだ場所まで戻ることにした。
その時、
「わわっ!!」
ズルッとセイが足を滑らせた。
昨日の雨で土の上に被さった落ち葉が濡れており、前に踏み出した足が葉ごと滑ってしまったのだった。
「セイ!」
とっさに後ろから抱くように支えたシュウのおかげで大事には至らなかった。
「大丈夫か?」
「………」
体勢を立て直してやりながら声をかけるも、相手の反応はない。どこか怪我でもしたのかと思って後ろから顔を覗き込めば、セイは顔を真っ赤にして身体を固くしていた。
「大丈夫そうだな」
クス…と笑いながらそう言ったシュウは、身体を離す代わりに少年の手を握る。恥ずかしさからか最初は握り返しもしなかったセイだったが、シュウがその手を引いて歩き始めると微かに指に力が込もった。
やわらかく優しいその感覚に笑みを深めた男は、沈黙を楽しみながらゆっくりと歩く。
こうして今日は暮れていった。
セイを満足させたのは、癒しの風景と過去の思い出。そして何より、大好きな人と同じ時を過ごせたこと。
シュウを満足させたのは、紅葉の美しさはもちろんだったが、何よりも、愛する少年の赤く染まったその顔を見られたこと。
次にふたりきりで出かける休日が訪れるのは、そう遠いことではないかもしれない。
- end -
2016-8-21
下書きは10.30あたり。
絢辻さんがうちのサイト(移転前)の7000Hitを踏んで下さったとお知らせ下さいました!
せっかくのキリのいい数字、ということでリクエストをお受けいたしました♪
シュウ×2主で「秋だし紅葉だし、2人でお散歩v」ということで…こんな感じにさせていただきましたvv
如何でございましょうか?
絢辻さんに捧げますvv
2009.11.1完成(2016.8.21修正)