1日の始まり ver.シュウ(裏)

1日の始まり ver.シュウ(裏)


 コンコン…

 いつものようにセイの部屋の扉をノックするが…反応はない。

 ガチャ…ッ

 静かに扉を開けて中に入り、ベッドのある部屋へと足を運ぶ。
 部屋に入ってベッドに目をやると、セイは白いシーツの中に丸まるようにしてうずもれていた。
「…セイ、起きろ。そろそろ時間だ」
 そう言って肩を揺すっても、セイは満面に笑みを浮かべたまま、全く起きる様子を見せない。
 どうも最近、遅くまで起きているせいか、セイの寝起きの悪さがさらに悪化している。1度声をかけても何も反応しないとき…それは、かなり深い眠りに落ちている証拠だ。
 ……幸せそうな寝顔だな。
 枕を抱え、ニッコリと微笑んでいるセイの顔を見て、俺はそう思った。
「……ん…」
 ゴロンと寝返りを打ったセイは、ちょうど俺のほうに顔を向けて眠っている。無意識のうちにその顔に見入っていた俺は、ハッとして首を左右に振った。
 ……何を考えているんだ、俺は。セイの唇に触れたい、と思うなんて。
「セイ、起きろ」
 このままではいけないと思い、俺は再びセイの肩を揺する。と、突然、奥の肩にかけた手をギュッと握られる。
「……おい、セ…イ……」
「…シュウ…さ、ん……」
 俺が少しあせってその手を離させようとしたとき、セイが俺を呼んだ。
 寝言だとはわかっていた。わかっていたが……俺はドキッとして動きを止めた。おかげで俺は再びセイの顔をじっと見ることとなり…そのやわらかそうな唇から目を離せなくなった。
 …触れたい……この、唇に。
 俺は、今度こそその欲望から逃れることができなかった。
 つかまれていない方の手で、ゆっくりとその形をなぞる。思ったとおり、そこはすごくやわらかく……温かかった。
 しばらく欲望のままに唇に触れていると、今度は別の欲望が湧きあがってきた。この唇を味わいたいという欲望が。
 何のためらいもなく、俺は自分の唇をセイの唇に合わせた。
 最初は触れるだけ。
 ……手で触れる時よりも数段やわらかく感じた。
 セイは何も気づかず、笑みを浮かべたまま眠っている。
 再び顔を近づけ、俺は今度はさっきよりも長く唇を合わせる。すると、何故だろうか? セイはピクッと肩を振るわせ、まるで誘うように少し唇を開けた。
 俺はそこに自分の舌を差し入れる。
 …思った以上にそこは甘かった。
 セイの舌を絡めとリ、しばらくの間唇を合わせていると、突然セイの瞳が開かれた。
 そして、目の前に俺の顔があるのを見て一瞬身体を硬直させる。だが、俺はキスをするのをやめなかった……いや、やめられなかった。
 少しするとやっと状況を理解したのか、セイの顔が真っ赤になり、ドンと俺の胸を押し返した。
 俺は仕方なく唇を離し、身体を起こす。とたん、セイはシーツを頭から被り、ベッドにうずくまった。

 ………しまった…。

 俺の頭に後悔の2文字が浮かぶ。
「…すまない、勝手にこんなことをして……」
「な…んで? なんでこんなこと……」
 俺が謝ると、少し泣きそうなセイの声がシーツの中から聞こえてくる。
「お前の寝顔を見ていたら、どうしても……止められなくなった」
 それを聞くと、セイがちらとシーツから顔を出した。相変わらず真っ赤な顔で俺をじっと見つめ、こう言う。
「…………もう、しない?」
 もう1度といわず、何度でもセイの唇に触れたかった。だが俺には、半分おびえた子供のような瞳でそう言われては、うなずくことしかできなかった。
 それを見て明らかにホッとしたセイは、シーツの中から出て来て恥ずかしそうに微笑んだ。
「おはよ、シュウさん」
「…おはよう、セイ」
 心の中は、言い表すことが出来ないくらいぐちゃぐちゃに荒れていたが、セイの笑顔につられて俺も微笑む。
「ボク、着替えるから…外で待ってて」
「あぁ」
 俺は大人しくセイのいる部屋から出た。
 ……セイは俺にキスされて怖かったのだろうか? おびえた瞳でこちらを見られてはそう思わざるをえないではないか。
 2度と、セイに触れることは叶わないのだろうか? ……こんなにも愛しくてたまらないお前に触れることは、できないのか?
「……シュウさん」
 静まり返った中でグルグルと考えていた俺に、セイが突然声をかけてきた。ビクッとしてその声に耳を傾ける。

「ボク……シュウさんが大好きだよ」

 真っ赤になってしゃべっているだろうことが手にとるようにわかるほど、小さな声だった。それでも、笑みがこぼれるのを止めることはできなかった。
「……知っている」
 好きだと言われて、さっきまでドロドロしていた心が軽くなった。
 嫌われているわけではないとわかっただけでこうだ。なんとも単純にできていることだな、俺の心も。


「お待たせ、シュウさん。ご飯食べに行こう」
 いつもの服に変えたセイが俺の隣に立つ。
「……あぁ」
 俺はそんなセイに優しく微笑みかけ、一緒に部屋を出た。

- end -

2016-8-21

2000.12.8に、当時「闇」という裏ページにUPしていたものです。
うふふ。そのころの私の中では、“キス”も裏な存在だったわけですよ。(笑)

『1日の始まり』シリーズになっております。
このほかに、セイ、葛、シュウ(表)、ティセ、ミオ、ユウトのバージョンがあります。


屑深星夜 2008.5.17に修正(2016.8.21修正)