あなたの名前を呼んでから
獲物を狙う 獣のように
ボクを求めるその瞳が
知らず身体をすくませる
触れられれば うれしいのに
身体が勝手に
愛する人から 遠ざかる
今日は…どうしよう? 会いたいんだけど、会うと……また、…キス…されるかもしれないし……。でも、会いたいし…。
…………やっぱり、出発のあいさつだけでもして行こう!
そう思って軍師の部屋を訪ねたんだ。
「じゃ、行ってきます!」
やさしい笑みを浮かべるシュウさんに安心してたら、
「気をつけて行ってこい」
と、触れるように唇を奪われた。
にやり、とこっちがドキッとするような顔で言われて、カッと頬が熱くなる。
「シュ…シュウさん!!」
思わず以前の呼び方で呼んだら、形のいい眉がひそめられて…気がついたら、シュウさんに後ろからガッチリ抱きしめられてた。顎を捕まれ、グイと苦しいくらい顔を上げさせられ…キスされたと思ったら、にこりと笑って言うんだ。
「シュウ、だろう? セイ」
大好きな人の笑顔にもっと真っ赤になった……けど、反対に身体は強張って…。でも、ちゃんと言わなきゃ離してもらえないだろうと思ったから、おそるおそる口を開く。
「…シュウ…」
きっと、苦しさに、押し出すように呟いたのがいけなかったんだろうな。くるりと身体の向きを変えられた…と思ったら、深く…深く口づけられた。
息が苦しくなっても離してはもらえなくって、口の中を動き回るシュウさんの舌にクラクラしながら…ボクはされるがままになるので精一杯。
チュッと音を立てて唇が離れたときには、もう、息が上がってふらふら。1人で立つのも辛くって…シュウさんの手を掴もうとしたら、あったはずのものがなくって……。
あんなに近くにいたはずなのに、シュウさんはいつの間にか離れたところにいたんだ。
「……さぁ、いってらっしゃいませ。他の者が待っているのではありませんか?」
急に軍師としての口調に変わった彼に背を押されて、ボクはジト目で振り返る。
「……待たせたのはシュウさ…ううん。シュウのせいでしょ…?」
「いいえ。あなたが可愛らしいのがいけない」
「そんなの知らないよっ!! もうっ……っ!!」
頬を膨らませて睨みつけると、静かに笑うんだよ。
「さ、これ以上、皆を待たせてはいけません。いってらっしゃいませ」
「……いってきます。シュウ“さん”っ!!!」
その態度にムカついて、思いっきり“さん”づけで呼んで、バタンと勢いよく扉を閉めた。
最近、シュウさんがおかしい。ぼくが名前を呼んだあの日から、会うたびにキスされて……ああやってからかわれる。
いや、じゃないんだよ? でも…求められる瞳の光が身体をすくませて……。
だけど、哀しいのはその後。急に軍師の顔に戻って、ボクを自分から引き離すんだ。
そばにいて、シュウさんを癒して支えてあげたいって思うのに、最近はそんなこと、全然できなくて……。
自然、シュウさんに会うのも減った。
そのせいなのかわからないけど、遠征中のボクは機嫌が悪いらしい。みんなが、腫れ物を扱うみたいにボクに接して…それが余計に気に障るんだ。
でも、みんなに悪い気持ちもある。
だから、なんとかしなきゃと思って、遠征後、こっそり城に戻ってオウランに会いに行ったんだ。
状況を説明すると、オウランは声を上げて笑うんだ。ボクには何が面白いのかわからない。
「軍師さん…ガマンしてんだねぇ……。あんたが可愛くて子どもだから……」
その言葉に頬が膨らむ。
“子ども”なのは自分でもわかってるよ。でも、簡単に大人になれるわけじゃないし、恥かしがりなこの性格だって変えられないんだもん。どうしていいかわからないから、相談したのに……。
オウランは、そんなボクの頭をポンポンと軽く叩く。
「いじわるはシュウのあんたへの気持ちのあらわれさ。ただ、あんたを傷つけたり怖がらせたくないから、軍師として距離をとる。全部あんたのためだよ」
「ボクの…?」
首を傾げると、目を細められる。
「全てはあんたが愛しいからすること。そう思えば、少なくとも怖くはないだろう? もう少し、素直に受け入れてみたら状況が変わるかもしれないよ」
本当に…変わる、かな?
どうなるかなんてわからなかったけど、ずっと今のままは嫌だから…。
「………うん、やってみる」
ボクは、小さく頷いた。
日の沈んだ後、帰還の報告をしにシュウさんに会いに行った。
そしたら、朝とは違ってやさしい笑顔を浮べたシュウさんに、
「おかえり」
と、頭をなでられて…部屋に帰された。
まるで、ボクが名前を呼ぶ前のシュウさんに戻ったみたい。
安心した気持ちもあったけど、心に何かもやっとしたものが生まれて…ベッドに寝転んだままブツブツと呟く。
怖くないシュウさんに戻って嬉しい。でも、どこか壁を感じるんだ。
それが寂しくて、何がシュウさんを変えたのか…考えて考えて、ふと思い当たる。
ボク、城を出る前に『シュウさん』って呼んだんだ!
もしかして……それがシュウさんを元に戻しちゃったの?
嬉しいはずなのに、モヤモヤは胸に溜まるばっかり。全然喜ぶことができなくって……ハッとその理由に気づいたんだ。
ボク……シュウさんに触れて欲しいんだ。キスして…求めて欲しい。大好きだって、態度で示して欲しいんだ!
言わなきゃ!! ちゃんと伝えなきゃっ!! このまま元どおりになっちゃうなんて嫌だからっ!!!
急いで階下に走り、乱暴に扉を叩く。
「誰だ?」
「シュウ!! ボク! 入ってもいい?」
一瞬、ためらう様子があった後、ガチャリと扉が開いた。
「どうした? そんなに焦って…」
「ね、シュウ!」
扉が閉まる間もなく、シュウさんの右腕を掴む。
ボクの様子がおかしいと思ったのか、
「セイ…?」
怪訝な顔で名前を呼ばれた。
ボクはそれに構うことなく言いたいことを続ける。
「前のシュウに戻っちゃったのは、今朝、シュウ“さん”って呼んだから…?」
彼は、思いも寄らない言葉に首を傾げる。
「ボクがまた“さん”つけて呼んだから、前みたいに触るの我慢してくれてるの!?」
そこまで言って、やっとボクの言う意味がわかったのか、シュウさんはしゃがんでボクと視線を合わせる。
「そうじゃない。最近の俺の振る舞いに、お前が怖がっているのがわかったから……」
「怖かった。でも……でも、それって、ボクが好きだから、なんでしょ?」
「……あぁ。お前を愛している。だから…」
意識的にボクを自分から遠い位置に置こうとするシュウさんに、自分から抱きついた。
「セ……イっ!?」
「帰ってきたとき、前みたいに優しいシュウで…嬉しかった。でも、距離を感じて、それがどうしても哀しくって……自分が“さん”って呼んだからかな、って思ったら、いてもたってもいられなくって……」
腕にギュッと力が入る。シュウさんは、抱きしめ返すでもなく…そのままの姿勢でボクの声を聞いてる。
「ボク…シュウが好き。だから…好きだって言ってくれるシュウにだったら……いいもん! だから、前のシュウに戻っちゃやだっ!!!」
言葉を失った彼は…しばらくしてボクを力強く抱きしめた。
「…いいのか? きっと…痛い思いをさせることになる」
怖くないわけじゃない。でも、抱きしめてくれるシュウさんの体温をもっと感じていたくて…。
「……シュウなら、いい。だから……さわって?」
耳元でそう囁くと、たがが外れたみたいに、熱く…深く…口づけられた。
その激しくて、甘くて…それでいて優しい舌に酔わされているうちに、いつの間にかボクは、シュウさんの寝台の上にいた。
「……愛している、セイ」
見下ろすシュウさんの顔が、今までに見たことないくらい…かっこいい。
「…ボク……も…」
荒い息で応えようとしたら、また唇を塞がれた。
頭が白く霞んで……その後のことは、よく覚えてない。
目が覚めたら、小鳥の声が響く朝。ボクはシュウのベッドの上にいた。
きちんと服を着せられて…たけど、昨日のことは夢じゃないってことを、ボクの身体が知ってた。
「起きたか…?」
机に向かって仕事をしていた手を止めて、寝台脇に膝をつくシュウの顔は、とっても優しい。でも…前のシュウじゃない。
落ち着いた雰囲気でボクの頬に触れると、軽く音のするキスを落とす。
「う……ん…」
真っ赤になって身体を起こすと、その背を支えて助けてくれる。
「……シュウ」
「なんだ?」
にこりと微笑む彼の耳元に、唇を寄せて一言。
「―――――…」
目を見開くシュウが…どうしようもなく、愛しく思えた。
あなたの名前を呼んでから
獲物を狙う 獣のように
ボクを求めるその瞳が
知らず身体をすくませる
触れられれば うれしいのに
身体が勝手に
愛する人から 遠ざかる
ボクを求めるのは
あなたの気持ちのあらわれ
はずかしくても素直に
受け止めようと決めた
そうしたら その手が遠ざかり
あなたの気持ちも遠ざかる
生まれた思いは ボクを動かす
聞こえぬ問いの答えは ―― 愛してる
ただ その一言
- end -
2016-8-21
2008年1〜3月ごろ、友人との妄想会でネタ出しを終えていた、シュウ×2主話です。
一応、前の「聞けない答え」とセット商品となっております。
いやぁ…「聞けない答え」もですが…こっちも、大概恥かしい!!
でも、でも、ついにです。ついにっ!!!
よかったねっ! シュウっ!!(爆)
一応、これにてシュウ×2主の本筋のお話は終了です。
ネタの神さまが降りてこない限りは…その場限りの小ネタ話をUPすることになるのでは、と思います。
でも、一番大好きなカップリングなので、何かしらできればいいな〜…なんて(笑)
2008.9.6完成(2016.8.21修正)