子守唄

子守唄


「…ね、ナナミ。子守唄……歌って?」
 セイがおずおずとそう言ってきたのは、久しぶりにのんびりセントリュリアン城で過ごしてた日のこと…。


 最近は、なんかもう…ホントに忙しかったの! 大きな戦があったわけじゃないけど、物資の調達兼ねて交易に出たり、斥候の代わりをしたり…。
 城にいることのが少なくって、やっと帰ってきたと思ったらもう寝る時間…みたいなことも多かったんだ。
 それでも、テツさんの作った最っ高の温泉に入るのだけは忘れなかったけど!

 夕ご飯を食べて部屋に戻って来たあたしたち。
 ヒルダさんからもらったお花を花瓶に活けてたら、ベッドに腰を下ろしたセイが上目遣いでこっちを見て言ったの。
「めっずらしー! どうしたの?」
 振り向いて首をかしげたら、今度は恥ずかしそうに俯いた。
「……ゲンカクじいちゃんがよく歌ってくれたなぁって思い出して」
「あーっ! そうそう!! あはは! セイったら、じいちゃんのうたがないと眠れなかったもんね〜」
 久しぶりに思い出したらどうにも笑えてきちゃって…あたしは笑いをこらえることができなかった。

 セイって小さいときは怖がりで、真っ暗闇じゃ眠れなかったり、夜に1人でトイレに行けなかったり…すっごくかわいかったんだよ〜! 暗闇が怖いからか、寝るときにすっごく緊張しちゃってなっかなか寝付けなかったしね。
 そんなセイのために、じいちゃんは毎日子守唄を歌って聞かせてた。まるで、見えなくても側にいるから…って伝えるみたいに。
 その声は隣で眠ってたあたしまで安心させて、変な夢を見たことは1度もなかったな。
 じいちゃんが亡くなってから、しばらくはあたしがその代わりをしてたっけ。
でも…いつの間にかそれも必要なくなっちゃったみたいなのよね。
 もう大丈夫、ってセイが言ってきたときはちょっと寂しかったな。

「もー…っ! そんなに笑わないでよ!!」
「ははははっ! ゴメンゴメン!」
 真っ赤になって声を荒げるセイに両手を合わせて謝った。

 小さいころは、じいちゃんのうただけが音楽だった。
 でも、じいちゃんがいなくなっていろんな人と関わるようになって、いろんな音に触れる機会が増えた。セイはあんまり興味なかったみたいだけど、あたしは旅芸人さんのうたとか聞きに行ってたんだよ。みんなとってもいい声で、楽器の演奏も上手で……すごかったなぁ〜!

 あ、アンネリーさんたちもすっごく上手だよね!
 でも、そういう人たちの音楽を聞くようになって気づいたことなんだけど……。
「じいちゃんって歌うの下手だったんだな〜って思うけど、あたしたちに歌ってくれた子守唄だけは、じいちゃんに勝てる人っていないよね」
「……うん」
 セイのゆっくりとした頷きは、この子もあたしと同じこと考えてるんだろうなって教えてくれる。
「音程とか、声の出し方とかそういうので比べたら、上手い人絶対いると思うけど……」
「うんうん」
「ボクたちにとっては、あの子守唄が一番上手だよ…ね」
「そうだね!」
 さっすが姉弟! 期待した通り、自分の心の中と同じ答えをくれたセイに微笑みかけ、グイッと腕まくりをする。
「よおしっ! ひっさしぶりにこのナナミちゃんが歌ってあげましょう!」
「……ありがと」
 あたしは静かに目を閉じると、大きく息を吸った。



   おねむりなさい  ひとみをとじて
   やさしいよるに  そのみつつまれ
   ゆめのくにへと  たびにでよう

   おねむりなさい  ひとみをとじて
   しずかなよるに  そのみあずけて
   ひかりめざめる  じかんまで

   おねむりなさい  ひとみをとじて
   おねむりなさい  ひとみをとじて



 歌い終わって目を開けると、そこにはベッドに座ったまま舟をこいでるセイがいた。
「……相変わらずだなぁ、もぉ〜っ」
 いつの間にか眠りの世界に旅立っていた弟の身体をそっとベッドに横たえ、シーツを被せる。
 あたしの言葉にムニャムニャと口を動かしたセイの顔には穏やかな微笑みがあって……それを見てるだけで、うれしくなっちゃた!

「おやすみ! セイ」

- end -

2016-8-21

4.29の妄想会で生まれたネタ。
「貴方の心に」を書いたことから生まれた話。
初のナナミ視点! ……ナナミちゃんになってるか激しく不安です(苦笑)

同志のオススメ歌手さんの歌のタイトル「歌う人」から考えた話。

子守唄は、ちょっとある漫画で使われてた子守唄をもとに考えさせてもらいました。
普通の歌と違って…どういう風に詞を作れば子守唄になるのかわからなくって(汗)


2009.5.10完成(2016.8.21修正)