「今日は1日休んで下さいっ! 兄さんが倒れたらセイラディア軍は立ち行かなくなるんですから!!」
連日、睡眠もそこそこに仕事をこなすシュウに、ついにアップルが怒鳴りつけた。
彼女が言うことは至極最もで、シュウ自身も分かっていることではあったが、目の前に仕事があればそれを片付けたいと思ってしまうのがいけない。気がついたら朝まで書類と格闘していた…何てこともあるほどだった。
妹弟子であるアップルによって急な休日を言い渡されたこの日。
何かをしていなければどうにも落ち着かないシュウは、部屋の隅で山となっていた本を読むことに決めた。
しかし、部屋にいては机の上の仕事が目に入り気もそぞろになってしまう。そのため、庭園の片隅のベンチに腰かけ、暖かな日差し降り注ぐ空の下、ペラ…と本のページをめくった。
本の世界に入り込んでしばらく……。
「シュウ!!」
急に名を呼ばれて顔を上げると、息を荒げたセイがいた。黄色のバンダナを風にたなびかせた彼は、額にかかる黒髪を避けながら口を開く。
「ここに…いたんだ…。ボク、シュウは今日休みだってアップルに聞いて……探してて……」
そういえば部屋に書き置きすら残してこなかったな、と思ったシュウは肩をすくめる。
「ああ。部屋にいるとどうにも落ち着かなくてな」
「仕事、たくさんなの?」
落ち着かないのは仕事があるからだろうと思ってのセイの言葉に、首を振った彼は苦笑する。
「急ぎのものはないが、放っておくとすぐに溜まっていくからな」
聞きながらシュウの左隣にちょこんと座った少年は肩を落として地面を見つめる。
「ごめんなさい。ボクが何にもできないから……」
それにシュウはため息をついた。
セイが自分の力の無さを嘆くのは今が初めてではない。
人には適材適所、自分の力の活かせる場所がある。もちろん、セイの能力の発揮できるところもあるのだが、それは城にいては難しいことだ。
各々ができることをできる場でやればいい。
それで十分なのだが、周りの人間が忙しく働いているのに自分は何もしないでいることに耐えられないようだった。
何度も同じことを考えてしまう少年に呆れながらも、そんな素直な気持ちが嬉しいと感じてしまうのはシュウが彼を好いているからだろうか。
「…お前はここにいるだけでいい。そう言っただろう?」
左手をセイの頭の上に置いたシュウは、その顔を見やり優しい微笑みを向ける。
「……うん」
頷いた少年は、サッと頬を赤く染めた。
シュウがその反応すら可愛いと心の内で思っていると、当人はその顔を隠すように視線を本に向けた。
「…本、どんなの読んでるの?」
「これは…物語だな。頭を休めるためにはいいかと思ってな」
難しい内容の本ではないと知って興味を持ったのだろう。
「どんな話?」
グイとシュウの左腕を掴んで近寄ったセイは、キラキラした瞳を本に注いでいる。
「戦乱で離れ離れになった幼なじみの少女を少年が探す話だな」
「ふんふん…」
右手でページをめくりながらシュウが簡単に話を説明してやっても、何度か頷いただけで視線を本から離そうとしない。
「今は、やっとある町で少女と再会できたんだが、彼女は全ての記憶を失っていた…というところだ」
「へえ〜!」
ぐい、と頭を寄せて本を覗き込んだセイの瞳は、紙の上から移動しそうもない。
その様子を見てシュウも本に視線を戻し、再びその世界の中へ入り込んでいった。
次に彼が現実の世界に戻ったのは、コツンと左肩に重みを感じたときだった。
そちら側を見ると、いつの間にか眠っていたセイの頭が乗っていた。
バランスよく座っているのは、自分の左腕を掴んだままの小さな右手と、肩に預けられた頭が上手い具合にはまっているからだった。
本の続きが気にならないわけではない。しかし、今は静かに寝息を立て自分に身を預ける少年のことが気になってたまらなかった。
普段ならば恥ずかしがって中々近寄ってこない彼が、これほど側にいることはめったにないだろう。
かすかに香るセイの甘い体臭に気づかなかった振りをしつつ、シュウは左側から伝わる熱にひたっていた。
そのうちに、ふわりと眠りに誘われる。
優しい日差しは2人を包み込み、心地良いまどろみの中、シュウはその意識を夢の中へと手放した。
- end -
2016-8-21
6.16の妄想会で下書きしたもの。
6.29のオフにて、前日九月さんからいただいたスケブのシュウと2主から妄想させていただきました。
っていうか!! シュウ兄さんですよ!! 2主ですよ!!!
読書中の兄さんの隣で2主寝てますよ!!!
なんですか! この私を殺しかねない素敵なイラストは!!!!!
……おかげで妄想大爆発。
ちょっと状況変わってるかもですが…こんな感じで考えさせていただきました!
九月さん、どうもありがとうございました〜!!!
2009.7.3完成(2016.8.21修正)