届け!

届け!


  大好きだから
  悩んでるところは見たくない
  苦しんでるところもみたくない

  そんなにがんばらなくていいんだよ

  言ってあげたいくらいに
  貴方は全部ひとりで抱え込んで
  考えることも 動くことを止めないんだ





 ハァ〜……。

 聞こえてきた何度目かのため息に、ボクは読んでいた本から顔を上げた。
 部屋に迎え入れてくれた時からなんとなくおかしいなって思ってたんだけど、やっぱりだ。ボクは、寝台で丸くなっている葛と思わず視線を合わせる。
 ため息の理由は、仕事がたくさん溜まってるからじゃないはずなんだ。だって、それはいつものことだし、それくらいシュウは文句を言いながらいつの間にか処理しちゃうもん。
 むしろね? 仕事がたくさんあるからこそ、本当の問題から少しだけ目を逸らすことができて、ため息程度で済んでるんじゃないかなって思う。

 じゃあ、シュウが何に悩んでるかっていうと……多分、次の遠征のことなんだ。
 目的地で目標を達成するために何をするのが1番いいかなんて、その時その場で考えてみないとわからないってボクは思うのにね? シュウは、予測できること全部考えて、その上でどう動くべきか、どんな準備をしなきゃいけないか……たとえ1パーセントでも起こりうる可能性があるもの全部について考えに考えて、その中で最善と思うものを用意してくれるんだ。
 まだまだ力の足りないボクたちは、いつだって危ない橋を渡ってるようなものってフリックはよく言うけど、それを少しでも安全な道にしてくれてるのがシュウなんだよね。
 それなのに、そのベストな道がどうしても考えつかなくて、ため息吐いちゃってるんだと思う。

 シュウがそんなに悩まなくていいんだよ。
 ひとりで抱え込まなくていいんだよ。

 ……そりゃ、ボクにできることは本当に僅かだけど、きっかけは何だって、セイラディア軍のリーダーになるって決めたのはボク自身なんだから。
 シュウは、子どものボクに重荷を背負わせたって思ってるみたいだけど、逆にね? ボクのせいでシュウに大変な役目を押し付けちゃってるんじゃないかって……思うんだ。
「それが俺の仕事だ」
 シュウは、当たり前みたいにそう言うと思う。それで「お前はお前の役割を果たせばいい」って言ってくれると思う。
 でもね。疲れてるところや悩んでるところを見るとね、どうしても胸が痛くなる。ボクのせいでごめんなさいって思っちゃう。例え、今悩んで苦しんだだけ未来の幸せに繋がるとしたって、できることなら、そんなこと忘れて好きなことばかり考えて過ごして欲しいし、いつだって笑っていて欲しいって思うよ。

 どれだけ考えたって、すっごい迷宮に迷い込んだみたいに正解をみつけられないことってあるでしょ?
 そういう時ってうんうん唸って考えててもダメなんだ。一度そこから離れて、ご飯とかお風呂とか……全く関係のないことをしてる時の方がふわっと浮かんで来たりするでしょ?

 だから、無理しないで。
 ちょっと休憩しよ?
 がんばってるの、ちゃんと見てるし、知ってるから。
 ……もう少し、自分を大事にしてよ……。

 そんな風に考えてたらもう、いてもたってもいられなくなって、本を置いて立ち上がってシュウの横まで駆け寄る。
「セイ?」
 シュウは、何も言わずにいきなりそばに来たボクを不思議そうに見てくる。ボクは、気持ちが涙になって溢れ出さないように口を真一文字にしっかり結んで耐えながら、シュウの頭に手を置いてそっと撫ぜた。
「……これは、何かな?」
「ほめてるに決まってるよ」
「褒められるようなことをした覚えはないが?」
「シュウに覚えがなくてもいいの! ボクがほめたくなったんだもん」

 ありがとう。
 ごめんね。
 すごいよね。
 さすがだよね。
 でも、がんばり過ぎだよ。
 無理はして欲しくないよ。
 だけど、ホントかっこよくて……大好きだよ。

 言いたいけど言えない、ボクの中で渦巻くたくさんの想いが、この手から伝わりますように!
 あなたにちゃんと届きますように!!

 丁度同じぐらいの高さから見つめられながらナデナデし続けてたら、フッと笑った瞬間に眉間の皺が取れたのが見えた。

 やった!

 ……なーんて喜ぶ間もなく、すぐに柔らかく微笑まれてボクの心臓が急に大きく鳴り始める。
「は、はい! おしまい!! ボ、ボクお茶の用意してくるから!! お仕事しながらちょっと待ってて!」
 慌ててそう言ってシュウから離れ、勢いのままに部屋を出る。おかげで、顔が赤くなる前に逃げ出すことには成功したんだけど、不自然さから丸わかりだよね、絶対。
 でも、あのかっこいい顔に微笑まれたら照れちゃってもおかしくないでしょ!?
 思い出して結局熱くなっちゃった頬を押さえながらも、ホッと息を吐いた。

 笑ってくれてよかった。
 問題が解決したわけじゃないんだけど、ほんの少しの間でもシュウの気持ちを軽くできたことが、嬉しかった。

 よし、次はいつものティータイムだ!
 更に強制的に休憩を取らせてやるんだから!
 そしたらきっと解決の糸口も見つかるかも。

 そう考えて、ボクはいそいそと食堂へ向かったんだ。





  大好きだから
  悩んでるところは見たくない
  苦しんでるところもみたくない

  そんなにがんばらなくていいんだよ

  言ってあげたいくらいに
  貴方は全部ひとりで抱え込んで
  考えることも 動くことを止めないんだ
  
  仕方のないことかもしれない
  必要なことかもしれない

  でも、やっぱり笑顔が見たいから

  届け! ボクの気持ち
  この手の平から

  届け! ボクの気持ち
  大好きな貴方に

- end -

2016-8-21

セイがシュウの頭を撫でるのいいよな……。
ということから生まれた作品です。

最初は椅子に乗らせて撫でさせる…と思いましたが、椅子に座ったシュウとならそれほど差はないかなと思って立ったままにしてみました。


屑深星夜 2016.10.1