「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

  今も俺は 微笑む
  黒く澱んだ欲を 喉の奥に飲み込んで





 人生で初めて愛しいと思い、愛されたいと願った相手。それが主と仰ぐ、まだ幼さの残る少年であろうとは……自分でも驚きだ。

 今まで付き合った女は数知れず。少なからず関係を持ってきた。
 しかし、できるものならば鎖で繋ぎ、部屋の奥…誰の目にも触れない場所に閉じ込めておきたいなどと思ったことなど、未だかつてなかった。


 最初は、こんなガキに何ができる、と思っていた。

 俺は、自分の才に自信を持っていた。だからこそ、何もできないような少年がハイランドと対立する軍のリーダーだとて、この身を献じようとは微塵も思わなかった。
 しかし、川の中でコインを捜すひた向きな姿は、誰もが協力したくなる…“信じたい”と思わせる。この少年なら、目的を達することができるのでは、と期待させる何かがあった。

 だからこそ力を貸し、一緒に生活するうちに……向けられるあたたかな瞳に癒され、心を許している自分がいることに気がついた。
 ……気づいてしまえば、もう後は坂を転がるばかり。

 いつのまにか俺は、セイを愛するようになっていた。


 セイが自分のものになるまでは、自制もできた。しかし、相手も自分を好いていてくれるとわかってからは……どす黒い欲望が高まるばかり。

 他の者と話す姿に。
 向ける笑顔に。
 触れる手指に。
 絡む視線に。

 しても仕方のないくらい全てに嫉妬し、彼は自分の物であると確かめたくて、子どもっぽい意地悪を繰り返した。


 できるはずもないのに、

―― 自分の腕の中に閉じ込めて
―― 誰にも見せず
―― 誰にも触れさせず
―― 自分だけを見つめるようにしてやりたい

と、何度考えただろうか。


―― あの白く細い首に
―― 鎖つきの首輪をつけ
―― 部屋につなぎ
―― 永遠に側に置いておきたい

と、何度思い描いただろうか。


―― ベッドから起き上がれないほど
―― 毎日可愛がり
―― その淫らで美しい肢体を
―― シーツに縫い止めておきたい

と、何度想像しただろうか。


 そんなことをすれば、彼は、俺が愛するセイではなくなってしまう。
 彼もまた、俺を愛することはなくなるだろう。

 ……わかっていても、思いは日に日に募るばかり。


 いつか、この欲を止められなくなって、何よりも誰よりも愛しい者を傷つけることになるかもしれない。

―― それはきっと、愛するものを失う時。

 その恐怖だけが、俺に理性を取り戻させるのだ。





  何ものにも捕らわれない 自由な姿が 彼の魅力
  誰にでも好かれ 人々の中心にいつの間にか立っている それが彼の才

  愛してる
  だから 俺だけを見てくれ

  お前さえいればいい
  だから 俺の側からいなくなるな

  俺という名の獄に永遠につなぎたい欲を 喉の奥に飲み込んで
  今日も俺は 微笑む

  「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

- end -

2016-8-21

2008年年末の妄想会で下書きしたもの…だったかと。
(その前だったかな?(汗))
「繋ぐ」4部作の1つ。
「繋ぐ」の意味の1つ、『「とらえとじこめる」例:獄に繋ぐ』より考えたもの。

シュウ兄さんの独白は…相も変わらず恥かしくって恥かしくって。
書いてて何度投げ出したくなったことかっ!(笑)

いやー…でも、この意味を見たときに、シュウ×2主しか思いつかなくて。
シュウ兄さんには申し訳なかったですが、こういう内容になっちゃいました〜v


2009.4.5完成(2016.8.21修正)